はじめに
『大腸がん』について
大腸がんは大腸に発生した悪性腫瘍を大腸がんと呼びます。
大腸がんは「腺腫」という良性のポリープががん化して発生します。
大腸がんの進行(病期)
大腸がんは深達度によって「早期がん」と「進行がん」に分類され、さらに深達度やリンパ節転移の有無、他臓器への転移の有無によって「病期(ステージ)」が決定されます。
- 出典:大腸癌治療ガイドラインの解説(金原出版)
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大腸がんの原因
大腸がんの発生原因は「食の欧米化」が関係しているといわれます。具体的には、高タンパク・高脂肪・低繊維な食事と相関関係にあり、飲酒、喫煙など生活様式からくる要因との関係が明らかになっています。
また、遺伝学的には多くの遺伝子の変異や異常の蓄積によりがんが発生することがわかっています。遺伝的要因の明らかなものには家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)と遺伝性非ポリポーシス大腸がんがあります。
大腸がんのリスクが
高くなる要因
下記の場合は、大腸がんになるリスクが高くなると言われています。あてはまる項目がある方は、早めに大腸検査を受けましょう。
- 大腸にポリープがある
- 家族に大腸がん経験者がいる
- 潰瘍性大腸炎やクローン病にかかったことがある
- その他のがんにかかったことがある
大腸がんの症状
大腸がんは、進行がんになるまで自覚症状がないため、なかなか気づきにくい病気です。便に少量の血液が混じることもありますが、痔のある方は「また、いつもの痔の出血かな」と考えて見過ごしてしまいがちです。
さらに症状が進行すると、血便、下痢と便秘の繰り返し、便が細くなる、残便感、 お腹の張り(腹部膨満感)、腹痛、貧血、体重減少などが見られます。
大腸がんと診断を受けた時点での
自覚症状の有無
- 出典:厚生労働省受療行動調査
大腸がんの検査
一般的には40歳を超えると大腸がんのリスクが上がります。大腸がんの早期発見・早期治療には大腸内視鏡検査(大腸カメラ)が有効です。40歳を過ぎたら無症状でも大腸内視鏡検査を行うことが大切です。早期発見することで早期大腸がんはほぼ根治することが可能です。
大腸がん検診(便潜血検査)や問診などで大腸がんが疑われた場合、大腸内視鏡検査を行い、がんの有無・部位・広がりなどを調べます。
自覚症状はなかったが病院を
受診した理由(複数回答)
- 出典:厚生労働省受療行動調査
理由 | 割合 |
---|---|
健康診断(人間ドック含む)で指摘された | 49.6% |
他の医療機関等で受診を勧められた | 22.0% |
病気ではないかと不安に思った | 12.3% |
その他 | 13.7% |
無回答 | 8.0% |
腫瘍マーカーについて
「腫瘍マーカー」というネーミングの影響か、「腫瘍マーカーで大腸がんを発見できる」ものと勘違いされている方が非常に多いですが、腫瘍マーカーで早期大腸がんは発見できません。進行大腸がんですら腫瘍マーカーが正常である場合も多いため、腫瘍マーカーは大腸がん検診の検査項目として推奨されていません。
腫瘍マーカーは、がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られます。しかし、腫瘍マーカーの値の変化だけでは、がんの有無やがんが進行しているかどうかは確定できません。また、がんがあっても腫瘍マーカーの値が高くならないこともあります。反対に、がんがなくても腫瘍マーカーが高値を示す場合があります。大腸がんでは手術後の再発や薬物療法の効果判定の補助のために、血液中のCEA、CA19-9を測定します。がんの有無やがんがある場所は、腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、画像検査など、その他の検査の結果も合わせて、医師が総合的に判断します。
大腸がんの治療
治療は、標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。図1は0期~Ⅲ期の、図2はⅣ期の大腸がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
0期~Ⅲ期の大腸がんの治療の選択
0期~III期では、主にがんを切除できるかどうかを判断し、切除できる場合には内視鏡治療または手術が勧められます。また、Ⅲ期もしくは再発リスクが高いⅡ期の場合は、手術のあとに薬物療法を行うことが勧められます(図1)。
- 大腸癌研究会編 大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版 2022年 金原出版 より作成
図1 0期~Ⅲ期の大腸がんの治療の選択
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IV期の大腸がんの治療の選択
Ⅳ期では、他の臓器に転移したがん(遠隔転移巣)が切除できるかどうかを判断します。遠隔転移巣、原発巣ともに切除可能な場合は、手術が勧められます。遠隔転移巣が切除可能であっても原発巣の切除ができない場合は、原則として、薬物療法、放射線治療などの手術以外の治療法が勧められます。遠隔転移巣の切除が不可能であって原発巣の切除が可能な場合で、原発巣による症状があるときなどは、原発巣の手術を勧められることがあります。
なお、転移しやすい部位は、肝臓や肺、腹膜、脳、骨などです。肝転移・肺転移の治療には、手術、薬物療法、放射線治療があります。転移した部位が切除可能なときは手術が行われることがあり、手術で切除できない場合でも薬物療法の効果があったときには、手術で切除可能となる場合もあります。脳転移の治療には、手術と放射線治療があります。
- 大腸癌研究会編 大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版 2022年 金原出版 より作成
図2 IV期の大腸がんの治療の選択
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大腸がんの予防
大腸がんの予防法について、「運動」がリスクを減らすことが実証されています。「肥満」は大腸がんの大きな危険因子で体重コントロールが重要です。「脂肪の多い牛肉」やベーコン、ソーセージ、サラミ、ハムなどの「加工肉」、「赤身肉」の食べ過ぎ、「お酒の飲み過ぎ」に注意し、「喫煙」も控えてください。
大腸ポリープについて
大腸ポリープの原因と症状
大腸ポリープは大きくなるとがん化することがあるので早期治療を推奨します。
ただし、大腸の粘膜には知覚神経が無いため、自覚症状がありません。そのため、大腸内視鏡検査による病変の確認は重要です。
小さなポリープは症状がありませんが、便潜血検査で陽性になることがあります。
※最も頻度が高いものは腺腫といわれる良性腫瘍です
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大腸ポリープの検査
大腸内視鏡検査が有用であり、ポリープの部位・大きさ・表面構造・毛細血管パターンから治療方針を決めます。
大腸ポリープの治療
切除の方法には、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があり、病変の大きさや部位、肉眼で見た形(肉眼型)、予測されるがんの広がりの程度などによって治療方法が決まります。
方法01内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
主に、キノコのような形に盛り上がった茎がある病変に対して行われます。内視鏡の先端からスネアと呼ばれる輪状の細いワイヤーを出し、スネアを茎に掛けて病変を絞めつけて、高周波電流で焼き切ります。茎のない、1cmまでの小さなポリープに対しては、高周波電流を用いないで、そのままスネアで切り取るコールドポリペクトミーという方法が主に行われます。
方法02内視鏡的粘膜切除術(EMR)
病変に茎がなく、盛り上がりがなだらかな場合は、スネアが掛けにくいため、病変の下に生理食塩水などを注入してから、病変の周囲の正常な粘膜を含めて切り取ります(図3)。
図3 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
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方法03内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
主にEMRで切除が困難な大きな病変に対しての治療法です(図4)。がんを浮きあがらせるために、病変の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入してから、病変の周りを高周波ナイフで徐々に切開し、はぎ取る方法です。EMRと比較すると、治療に時間がかかります。また、出血や穿孔などのリスクも少し高くなります。
図4 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
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内視鏡的治療の合併症
治療後に、出血や大腸に穴が開く穿孔が起こることがあります。治療中の出血は少量であることがほとんどです。
出血が起こると、血便が出ることがあります。穿孔が起こったときには、腹痛や発熱などの症状が出てきます。そのほかにも、治療後に何らかの体調の変化を感じたときには、医師や看護師に伝えることが必要です。