『胃がん検診にはバリウム検査と胃カメラとどちらがいいですか?』と患者さんからよく質問を受けます。
答えは『胃カメラ一択』です。
胃がん検診において、バリウム検査が胃カメラよりも優れている点は何一つありません。
バリウム検査では胃や食道の粘膜に付着したバリウムの影をレントゲンで撮影しながら癌を探すため、粘膜の不整がまだ出てこない粘膜の色調変化しかないような極早期の癌を発見することは不可能です。
特に食道癌は早期癌であってもリンパ節転移を起こしやすいため、早期癌の中でも粘膜の一番浅い層に留まっている段階の『極早期』の癌を発見する必要があります。しかし、バリウム検査ではそのような極早期の食道癌を発見することは不可能です。胃カメラなら『NBI』という特殊な画像処理により極早期の食道癌が茶色く浮き上がって見えるので、容易に極早期の食道癌を発見することが可能です。
たまに『スキルス胃癌は胃カメラでは見つけにくいのでは?』との質問を受けますが、全く問題ありません。スキルス胃癌は粘膜の下を這いように癌細胞が増殖して拡がるため発見しにくいように思われますが、丁寧に丁寧に胃粘膜を観察すれば、微小な色調変化を捉えることは可能です。また、胃カメラを使って十分に空気を胃の中に送りこんで、パンパンに胃を膨らませてあげれば、スキルス胃癌に特徴的な胃壁の硬さを見つけることが可能です。
(当然ですが、丁寧な観察を怠り、胃への送気が不十分な場合にはスキルス胃癌を見落とす可能があるので、腕のいい内視鏡医を選ぶのは言うまでもありません)
現在の胃がん検診で使用する胃カメラは、非常に細い経鼻内視鏡を使用します。皆さん『経鼻内視鏡だと画質が悪いのでは?』と心配されますが、全く心配いりません。現在の経鼻胃カメラは高画質で口から挿入する太い胃カメラと同じです。また、『経鼻内視鏡だと生検出来ないのでは?』と思われている方も多いようですが、もちろん生検可能です。
つまり、胃がん検診を受けるにあたり、あえて口から太くて苦しい内視鏡を使用する理由は全くありません。
たまに鼻の中がとても狭くて経鼻胃カメラが入らない場合がありますが、心配いりません。口から細い経鼻内視鏡を挿入することも可能です。
どうしても喉が敏感でえずきやすい場合には鎮静剤(静脈麻酔)を使って眠っている間に胃カメラを受けることも可能です。
バリウム検査の場合、検査終了後にバリウムが腸の中で固まってしまい、便が出ずに往生することがあります。しかし、胃カメラの場合はそのような心配は一切ありません。
もちろん、胃カメラにも局所麻酔薬によるアレルギーや出血、消化管穿孔などの偶発症のリスクは極稀にあるものの、ほとんど無視できる程度のリスクで、胃カメラを選択しない理由にはなりません。
最後に一番説得力のある話をお伝えして今回のトピックスを終えたいと思います。
『医者は誰もバリウム検査を受けず、胃カメラを受けます』
これがすべてを物語っていると思います。