はじめに
『IBD』(炎症性腸疾患)について
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease )とは、主に腸の粘膜に炎症や潰瘍を生じる慢性疾患のなかで、特に潰瘍性大腸炎(Ulcerlative Colitis;UC)、クローン病(Crohn Disease;CD)を指します。
下痢、血便、腹痛が主な症状で、10代から40代の比較的若年者(最近は高齢者の発症も目立ちます)に多く、再燃(悪くなったり)、寛解(良くなったり)を繰り返すのが特徴です。
原因不明の難治性疾患(厚生労働省が定める指定難病)ですが、近年の研究で免疫機構の異常や腸内細菌、食事、遺伝、環境因子が原因として関与しているのではないかと考えられています。
下のグラフのように、IBD患者数は増加傾向にあり、決して珍しい病気ではなくなってきています。
IBDの
症状と治療法
IBD(炎症性腸疾患)の症状
慢性的に続く下痢、血便、粘血便、腹痛が主な症状で、発熱、体重減少、貧血、肛門病変を伴うこともあります。再燃(悪くなったり)、寛解(良くなったり)を繰り返すのが特徴です。
潰瘍性大腸炎とクローン病の主な症状 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(2007年)
上… 潰瘍性大腸炎下…クローン病
IBD(炎症性腸疾患)の検査法
診断には胃カメラや大腸内視鏡検査を行い、炎症の状態や範囲を調べます。なお、内視鏡検査のときに組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査(生検組織検査)を同時に行うこともあります。
小腸の病変に関しては、小腸内視鏡検査やバリウムを用いたX線検査を行い診断します。また、口から飲み込むカプセル型の内視鏡が小腸の診断に役立つ場合がありますが、腸に狭窄があるとカプセルが詰まる危険があるため、カプセル内視鏡を用いるときは事前に同じサイズのダミーのカプセルによる検査で通過可能であるかを確認します。 また腸に狭窄や瘻孔(腸に深い潰瘍ができて皮膚やほかの臓器との間に通路ができた状態)、膿瘍などを疑う場合は、腹部のCT検査やMRI検査を行うことがあります。
IBD(炎症性腸疾患)の治療法
残念ながら、現在この病気を完治させる治療方法はありません。しかし、様々な治療法により、多くの患者さんが健常人と同じように普通に日常生活を送ることは可能です。治療の目標は”完治”ではなく、”寛解”(病気がコントロールされた状態)を維持することです。病状によっては入院治療や、外科的手術が必要になる場合もあります。
- 出典:Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2015 Sep;12(9):537-45.
院長の
IBD治療へのこだわり
当院のIBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)診療方針
当院では、ECCO(European Crohn’s and Colitis Organisation)をはじめとする国内外の診療ガイドラインに基づき、科学的根拠に裏付けられた標準治療(EBM)を提供しています。
IBD診療では、症状が改善した「臨床的寛解」だけでなく、内視鏡で炎症が認められない「内視鏡的寛解」、さらに顕微鏡レベルで炎症が十分に制御された「組織学的寛解」を重要な治療目標と考えています。組織学的寛解の達成は再燃リスクの低下や長期予後の改善につながることが報告されており、長期にわたり安定した病状を維持するうえで重要な指標とされています。
近年、IBD治療は飛躍的に進歩し、多くの患者さんが外来で適切な治療を継続することで良好な病状コントロールを維持できる時代となりました。一方で、IBDの病態は患者さんごとに異なり、同じ治療がすべての患者さんに同じ効果を示すわけではありません。また、治療開始前に確実な治療効果を予測することも困難です。
そのため当院では、症状、内視鏡所見、血液検査結果、これまでの治療歴などを総合的に評価し、一人ひとりの病態に応じた最適な治療をご提案しています。治療効果だけでなく、薬の副作用や注意点についても十分にご説明し、患者さんと相談しながら治療方針を決定します。
私は大学院で消化管免疫学を学び、米国でのIBD基礎研究、スウェーデンでのIBD臨床研究に従事し、帰国後は大学病院において多くの重症例・難治例の診療に携わってまいりました。
IBDは、遺伝的背景、食生活、腸内細菌叢、環境因子、ストレスなど、さまざまな要因が複雑に関与して発症する疾患です。適切な治療のためには、免疫学的な病態理解と豊富な臨床経験の双方が重要です。当院では、これまでの研究経験と診療経験を活かし、患者さん一人ひとりの病態を深く理解した診療を心がけています。
潰瘍性大腸炎やクローン病でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
(注意)当院では青黛(せいたい)や広島漢方などの未承認治療は行なっておりません。 また、他院で未承認薬を内服している患者さんに関しても、安全性を担保出来ないことから、当院での診療をお断りする場合がありますので、あらかじめご了承下さい。
当院で行っている主な治療
【重要】当院のIBD診療について
当院は無床診療所のため、軽症の患者さんおよび寛解維持治療中の患者さんを対象に診療しております。
中等症~重症の患者さんや入院治療が必要な場合は、IBD専門病院へご紹介いたします。
また、院内での生物学的製剤の点滴・注射には対応しておりません(自己注射製剤は対応可能です)。
あらかじめご了承ください。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)、サラゾスルファピリジン(SASP):ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®、サラゾピリン®
5-ASA製剤は、潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬剤です。適切な量を継続して服用することで、多くの患者さんで寛解導入および寛解維持が可能です。
5-ASA製剤は腸管の炎症を抑える作用を有し、特に潰瘍性大腸炎では軽症から中等症の患者さんに対する第一選択薬として広く使用されています。また、クローン病においても病状に応じて使用されることがあります。内服薬だけでなく、病変の部位に応じて坐薬や注腸製剤を併用することで、より高い治療効果が期待できます。特に直腸炎型や左側大腸炎型の潰瘍性大腸炎では、局所製剤の併用が有効です。代表的な薬剤として、サラゾピリン®、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®があります。リアルダ®は有効成分であるメサラジンを大腸全域へ持続的に放出する製剤で、1日1回の服用で治療効果が期待できます。5-ASA製剤は比較的安全性が高く、長期にわたって使用できることが特徴です。当院では病状に応じて適切な薬剤選択と十分量の投与を行い、寛解導入だけでなく、再燃のない安定した寛解維持を目指しています。
副腎皮質ステロイド:プレドニン®、コレチメント®、レクタブル®、ゼンタコート®、ステロネマ注腸®、プレドネマ注腸®
ステロイドは炎症を速やかに抑える「寛解導入薬」であり、長期の維持療法を目的とした薬ではありません。
ステロイドは、5-ASA製剤で十分な効果が得られない中等症から重症の炎症性腸疾患に対して使用されます。クローン病・潰瘍性大腸炎ともに強力な抗炎症作用を有し、活動性の高い炎症を短期間で改善する効果があります。一方で、ステロイドには寛解維持効果がなく、長期使用により感染症、糖尿病、骨粗鬆症、白内障などの副作用が問題となるため、寛解導入後は速やかに減量・中止し、5-ASA製剤や免疫調節薬、生物学的製剤などによる維持療法へ移行します。クローン病では、小腸や右側結腸に炎症を有する軽症から中等症例に対して、全身への影響を軽減した局所作用型ステロイドであるゼンタコート®(ブデソニド)が使用されます。潰瘍性大腸炎では、軽症から中等症の活動期に対して、ブデソニドを有効成分とするコレチメント®が使用されます。また、直腸やS状結腸に炎症が限局する場合には、レクタブル®注腸フォームやステロネマ注腸®、プレドネマ注腸®などの局所製剤が有効です。これらの局所作用型ステロイドは病変部に直接作用するため、全身性ステロイドと比較して副作用が少ないことが特徴です。
(注意)現在、プレドニン内服による治療は行っておりません。
免疫調節剤:6-メルカプトプリン・アザチオプリン(ロイケリン®、イムラン®)
アザチオプリン(AZA)および6-メルカプトプリン(6-MP)は、炎症性腸疾患の寛解維持を目的として使用される免疫調節薬です。ステロイドの減量・中止が困難な患者さんや再燃を繰り返す患者さん、クローン病術後の再発予防などに用いられます。これらの薬剤は効果が現れるまでに通常2〜3か月程度を要するため、活動性の高い炎症を速やかに抑える目的には適していませんが、長期的な寛解維持に有効です。また、生物学的製剤と併用することで薬剤に対する抗体の産生を抑え、治療効果の低下(二次無効)を予防する効果も期待できます。一方で、白血球減少などの骨髄抑制、肝機能障害、膵炎、感染症、脱毛などの副作用がみられることがあるため、定期的な血液検査による慎重な経過観察が必要です。当院では治療開始前にNUDT15遺伝子多型を確認し、副作用のリスクを十分に評価したうえで、安全性に配慮しながら治療を行っています。
(注意)現在、上記薬剤による寛解導入療法は行っておりません。寛解維持療法のみ実施しています。
抗生剤・プロバイオティックス:フラジール®、シプロキサン®、ミヤBM®
炎症性腸疾患では、腸内細菌叢(腸内フローラ)が発症や病態に関与していると考えられています。抗生剤やプロバイオティクスは、一部の病態に対して補助的な治療として使用されます。
クローン病や潰瘍性大腸炎では、腸内細菌叢の異常が炎症の発生や持続に関与していることが知られています。特にクローン病に伴う肛門周囲膿瘍や痔瘻、潰瘍性大腸炎術後に生じる回腸嚢炎に対しては、メトロニダゾール(フラジール®)やシプロフロキサシン(シプロキサン®)などの抗生剤が有効な場合があります。プロバイオティクスは、乳酸菌や酪酸菌などの有益な細菌を補うことで腸内環境を整え、腸管の炎症を改善することを目的とした治療法です。潰瘍性大腸炎や回腸嚢炎において一定の有効性が報告されており、病状に応じて補助的に使用されることがあります。これらの治療は生物学的製剤や免疫調節薬のような主たる治療ではありませんが、患者さんの病態に応じて適切に併用することで症状の改善や再燃予防に役立つ場合があります。当院では患者さんの病状や腸内環境を総合的に評価し、必要に応じて抗生剤やプロバイオティクスを組み合わせた治療を行っています。








